
「アンジェリークはクリスマスプレゼントは何がいいのだ?」
鼻歌を歌いながらリースを飾るアンジェリークに、レヴィアスは愛しそうに目を細めた。
「レヴィアスとアリオスが仲良くしてくれたら、何も要らないわよ」
「それは出来ん!」
レヴィアスのきっぱりとした口調に、アンジェリークは苦笑する。ダメなのは判っているけれども、クリスマスぐらいは仲良くして欲しいと思う。
「その他には!」
「そーね」
アンジェリークは少し考え込んだ後、楽しそうにレヴィアスを見た。
「”ホワイト・クリスマス”!」
夢見るようにうっとりと笑う彼女の笑顔は本当に愛らしい。
レヴィアスは、いつもこの笑顔にクラリときてしまう。そう、アンジェリークがいれば何もいらないと思うほどに。
「ね、雪が積もった夜に、家から明りが漏れて雪を照らすでしょ? あの温かさと幻想的な優しさが大好きなの〜」
こんなときの彼女は、まるで無垢な少女にすら見える。
可愛い、可愛い過ぎる!! 我のアンジェリークは!!
「ねえ、雪が降ったら、レヴィアスは何がしたい? 雪合戦、雪だるま? かまくら?」
「かまくら・・・、と雪合戦」
二人で作ったかまくらで、コタツに入りながら雪見酒を決め込む。
もちろんお酒はアリオスのをくすねてきたウォッカ。
「綺麗ね、雪・・・」
「ああ」
アンジェリークは、我に甘えるように頭を凭れさせ、我もその栗色の髪を撫でてやる。
後は、雪合戦。
雪の中には、もちろん石を詰めて、あの憎たらしいアリオスに目掛けて投げてやる!
もちろんあいつに命中して、その場で崩れ落ちる。
「レヴィアス、アリオスより強いのね!! 大好き!!」
アンジェリークは我に抱きつき、ほっぺにチュ。
ほっぺに・・・。
雪を降らすぞ!! 大魔導師ヴァーンの愛弟子として、出来ぬはずはない!!
(レヴィアス妄想暴風警報発令!!)
「何、にやついてんだ、バカ息子!!」
ポンと肩を叩かれて、レヴィアスは現実に戻された。
「アリオス」
「おまえ、どうせまたロクデモねーこと考えてたんだろ?」
「おまえには関係ない!!」
レヴィアスはすっかり機嫌を損ねてしまい、アンジェリークの後ろに隠れてしまった。
「何、レヴィアス。あっ、おかえりアリオス!」
愛する人の姿を見つけて、アンジェリークの声は華やぎ、それがレヴィアスには癪に障る。
「今日ね、アリオスの大好きな、ジンジャー・ブレッドマン・クッキーを焼いたわ」
「サンキュ」
アリオスは、アンジェリークの頬にキスしようとして、レヴィアスに足を引っ掛けられ、躓く。
「何、しやがる!!」
「----我の女に触れるな!!」
「あ〜んだと〜!!」
二人の間に火柱が燃え上がり、いつものように、いつもの日常的行為が繰り返される。
「二人とも!! いいかげんいしてっ!」
そして、いつものようにアンジェリークの怒鳴る声でその行為は終焉を迎えるのであった。
覚えておけ! 雪を降らせて、おまえなんか逆転してやる!!
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翌日から、レヴィアスの果敢なチャレンジが始まった。
少女向けのおまじない本を漁って見たり、苦労して手に入れた『魔導の薦め〜大魔導師ヴァーンの教え』などを読んで、雪を降らす方法を模索していた。
恋する女もアホだが、恋する男はもっとアホだ。
親父を見れば、それが、よく判る。
だけど、愛しい人の笑顔ためなら、なんだってする。
レヴィアスは、本に書いてあった通りに、部屋に祭壇を作り、部屋を暗くして、両手に蝋燭を持ちながら、祈りを捧げ始めた。
「うりゃ! たあ! 雪を降れ〜」
レヴィアスの部屋から漏れる奇妙な呪文と、叫び声にアンジェリークは頭を抱える。
「----またなんか怪しいことを始めてる〜」
「アイツ、いつからスキー場のまわしもんになったんだ?」
クリスマス準備の手伝いをしていたアリオスも苦笑しながらその声を聞く。
「なんかね、”ホワイト・クリスマス”にするために頑張ってくれてるらしいんだけど・・・」
「あ〜?」
「私が、”ホワイト・クリスマス”がステキって言ったからみたい・・・」
困ったように彼女は俯く。
アリオスは、フッと微笑むと、アンジェリークの瞳を優しく覗き込んだ。
「じゃあ、俺もそれに似合う何かをしなくちゃな?」
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雪を降らせるおまじないを、レヴィアスは前日までかなりした。
詳細はざっとこんなものだ。
誰にも見られず、ノートに願い事を100回書き連ねる。
消しゴムに願い事を書き、それのカスを全部瓶に詰める。
月夜に願い事を書いた紙を水に浮かべて一晩おき、それを翌朝一気飲みする。
などなど、本当に効くんだろうかと疑いたくなるようなおまじないの数々だった。
しかし、彼の願いも虚しく、イヴの夜になっても、一向に雪は降らなかった。
「雪、降らないな・・・」
もう寝る時間なのだが、レヴィアスはパジャマに着替えても、まだ窓の外を見ていた。
「レヴィアス、風邪ひくわよ? 早く寝なさい」
アンジェリークは、そっと彼の肩に手編みのカーディガンを駈けてやりながら、微笑んだ。
「アンジェリーク」
「明日になったら降っているかもしれないでしょ?」
輝くばかりのアンジェリークの笑顔にはからきし弱い。
「----判った・・・。お休み、アンジェ」
二人はお互いに、軽い”お休みのキス”を頬にした。
レヴィアスが自分の部屋に戻った後、今度はアンジェリークが窓辺に立つ。
「遅いな、アリオス。あっ!」
庭に銀色に光る影を見つけ、アンジェリークは慌てて庭に出て行った。
「アリオス!!!」
「ただいま」
庭に居たアリオスは、少し地面を掘り返し、小ぶりだが立派なもみの木を植えたところだった。
「凄い!!」
彼の気遣いが嬉しくて、彼女は思わず抱きついてしまう。
「レヴィアスが頑張ってるんだから、俺も演出しなきゃな?」
「もう!! 大好き!! きっとあの子も明日の朝、びっくりするわ!!」
「愛してるからな」
甘く囁かれて、アンジェリークの唇にアリオスの唇が降りてきて、互いの情熱で温めあう。
ゆっくりと唇が離され、アリオスはニヤリと微笑む。
「後でゆっくり温めてやるから、飾り付けを手伝え?」
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翌朝、アリオス家は幸せな喜びに包まれた。
「あっ!! 雪よ!! ホワイト・クリスマス!! アリオス!! レヴィアス!!」
はしゃぐようなアンジェリークの声に二人とも、寝ぼけ眼で窓辺にやって来る。
アリオスが昨晩のうちに埋め、アンジェリークと一緒に飾り付けをしたもみの木は、雪をうっすらと被り、おとぎの国のそれのように幻想的だった。
「----有難う!!! 二人とも!! 最高のクリスマスだわ!!」
泣き笑いになりながら、二人に抱きつくアンジェリークを、彼らも抱き返す。
丁度家族三人が抱きあう格好になった。
「メリークリスマス!! アリオス、レヴィアス!!」
「メリークリスマス!!!!! アンジェリーク!!!」
二人が声を合わせて言ってくれたのが、アンジェリークには何よりも嬉しかった。

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コメント![]()
「FAMILY TIES」のクリスマス偏です。
今回は、家族で楽しいクリスマスがテーマでした。
しかし、ハードボイルドなアリオスさんを書いた後だったので、この世界に戻るのがたいへんだった(笑)
だって、ぎゃっぷありすぎ・・・
